ご挨拶
2017年4月に開催された「第91回日本感染症学会・第65回日本化学療法学会合同学会」の折,ランチョンセミナー23として「肺炎球菌ワクチンの最新事情 - Think Globally, Act Locally -」のタイトルにて講演させていただきました。講演内容が基礎から臨床まで多岐にわたったこともあり,内容を十分にご理解いただくためその内容を冊子としてまとめ,啓発活動の一環として配布いたしました。
この時期は,ちょうど小児において「沈降7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)」から「沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)」へと切り替えられて3年経過した時期に相当しましたが,残念ながら基礎的データの解析が一部間に合いませんでした。
2010年度から2016年度に収集された全菌株の解析終了後,7年間の分子疫学研究として論文化して「Emerging Infectious Diseases(EID)」に投稿しました。幸いにして収載されることができました。これらの完全なデータに基づいて,わが国における肺炎球菌感染症の実態,そしてなぜワクチンが必要なのかを改めて記述し直しました。
戦後,抗菌薬のペニシリンが登場するまで,市中で突然発症する肺炎球菌性肺炎は,若年層であってもまさに致命的となる感染症でした。振り返ってみますと,わが国における抗菌薬のおびただしい開発は私達に多くの恩恵をもたらしました。世界に例をみない超高齢化社会は,社会インフラの整備と同時に,国民皆保険制度に支えられた容易な医療アクセスの恩恵でもあります。
しかし今日,たとえ抗菌薬が適切に使用されたとしても,それだけで万全ではなくなってきているのも事実です。
高齢化社会において急速な臨床経過をたどるいくつかの感染症,すなわち肺炎球菌感染症やレンサ球菌感染症等が含まれますが,発症予防としてのワクチンがある場合には「感染症の集団予防」という理念からも,その接種は必要であります。小児と異なり,壮年期以降の成人における個々人の免疫能には基礎疾患の有無などによって著しい差があります。「加齢とは身体的機能の低下のみならず,細胞レベルでの免疫機能の低下も伴っている」ことを現実として受け止め対応することが必要です。
私達が今まで研究してきた肺炎球菌の基礎から臨床までを平易にまとめたこの冊子が「肺炎球菌感染症とワクチン」を理解するための一助になれば幸いです。
2019年1月15日
生方(文責),岩田,石井,花田
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