肺炎球菌感染症とワクチン - Think Globally, Act Locally -

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VI. おわりに

肺炎球菌は自己融解酵素産生能を有する極めてひ弱な菌の代表である。黄色ブドウ球菌などとは同一には論ぜられない菌である。検査においては,注射薬が一度でも投与されると培養法では菌はほとんどの場合発育せず,PCRでしかその存在を証明することができない。また,検査材料が培養までに長時間放置されても死滅してしまうとてもデリケートな菌なのである。わが国で本菌に対する認識が非常に低いのはこのためでもある。

このような性状を有しているため,肺炎球菌は培養6時間後位から自己融解を起こしはじめ死滅していくが,その際DNAを漏出する。そのDNAはタイプの異なった肺炎球菌へと取り込まれ遺伝子組み換えを起こすのである。

つまり,ヒトの上咽頭の奥深くに付着してコロナイズした肺炎球菌は,容易に遺伝子変異と遺伝子組み換えを繰り返しながら生き延びそして拡散できる環境順応性の極めて高い菌なのである

図-39
肺炎球菌感染症コントロールの3つの基盤

このような肺炎球菌による感染症のコントロールには,図-39に示した3つの基盤構築が重要となる。先ず発症予防対策としてのワクチン接種はなによりも必須である。PCV13とPPSV23のワクチン効果については冊子全体を通じて記したとおりである。さらに成人においては,重症化のリスク因子となる基礎疾患をいかにコントロールするかその啓発活動が活発におこなわれなければならない。発症者には治療薬の的確な選択と適正使用が求められる。しかしそれには正確で迅速なPCR検査が本来期待されている。それらが不可能な医療機関のためにも,また菌の変化をリアルタイムに把握する上でも1カ所に菌株を集めた正確で持続的な大規模疫学解析が必要である。そして何よりも重要なのは発症例の病態解析であるが,臨床と基礎との信頼関係なしには成り立たない

各医療機関にサーベイランスに協力していただくには,「臨床サイドへの結果の速やかな返却」なしには成立しないことを最後に強調しておきたい